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好きと得意は別の話というか別の次元。

【#029|アポロ】

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 父がまだ会社勤務していた頃、自社の会議室で取引先との重要な商談があった。普段めったに緊張しない父ですら直前まで綿密なチェックしており、失敗が許されない空気だった。

 商談当日、取引先の社員が会議室に入ってからの商談は順調に進んで、このまま良い方向に終わる雰囲気になった。

 商談の途中で「失礼します」と部下の新人OLが入室して、お茶出しにホットコーヒーを運んできた。

「失礼しました」と彼女は丁寧に去ったが、その彼女が置いていった物を見ると……

◆温かいコーヒーが入ったカップ
◆そのカップを支えるソーサー(受け皿)
◆ソーサーの上に角砂糖とコーヒーフレッシュ
◆一番手前に混ぜる小さいスプーン
◆その隣にちょこんと小さなアポロチョコが一粒

 アポロチョコ…?

 なぜアポロチョコがこんな所にいるのだ?

 これはお茶菓子の意味で置いているのか?

 会議室にいるサラリーマンたちが顔を見合わせていた。

 まずアポロチョコはお茶菓子にならないし、しかもなぜ一粒だけなんだ。この謎のおもてなしにどう対応しろと言うのだ。40も過ぎたおじさんたちが左手にコーヒー、右手にアポロチョコ一粒だけ持って話し合うのか。シュールすぎる。

 取引先の一人が気を使ったのか、「いやぁ、うちの娘がアポロチョコが好きでね」と言いながらアポロチョコを取ったら、熱いコーヒーの伝熱でソーサーも温まったのか「ネチョ…」と潰れてしまった。

 少々微妙な空気のなか商談が終わって、父は即彼女に訊いた。

「何でアポロチョコ、しかも一粒だけ置いたんだ!?」

「えー可愛いかなって思って」

 その行いに悪意がないからこそ面倒くさい。まだ社会経験が浅いとはいえ、アポロチョコは会議室に出すお菓子ではないぐらい分かるだろ。そういう忠告を先輩OLたちにみっちり指導を受けたらしい。

 そんなことより結果的にその商談は成功したのかどうなのか。

 母が当時父から聞いた話を私に話したときコメディ口調だったので、おそらく成功したのだろう

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【あとがき】

 せっかく中学の頃から航空宇宙とポルノグラフィティの大ファンなんだし、何かアポロにちなんだ面白表現してみても良かったんですが、もうエピソード単体で十分面白いから何も手を加えませんでした。

 もし手を加えるとしたら、どう表現しましょう。

 アポロなんだから上から覗いてカップが惑星で、ソーサーが惑星を囲む環で、その環に着陸する一粒のアポロでも良かった気がします。あまりに内容から離れた表現だし、アポロ溶けて大事故だけど…。

 アポロなんだから『アポロ』の歌詞「大統領の名前なんてさ 覚えてなくてもね いいけれど せめて自分の信じてた夢ぐらいはどうにか覚えていて」をもじって、新人OLにスポットライト当てて「取引先の名前なんてさ 覚えてなくてもね いいけれど せめて自分の信じてたもてなしぐらいはどうにか覚えていて」と先輩OLたちがエールを贈る現代ミュージカル調にするのも面白いと思います。まあ職場マナー的にも著作権的にも完全NGだけど…。
 
 やっぱり元ネタで十分面白いから、エッセイ的にこれで正解ですね。