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好きと得意は別の話というか別の次元。

【-11- レイクサイド・ケース|ディスレクシア・カタルシス(11)】

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 同じ幼稚園時代の中の少しさかのぼった頃のこと。

 その当時、私は地元にある軽度障害児のリハビリ会に所属していた。そこである年の夏休みに静かな湖畔にあるログハウスで1泊2日の『お泊まり会』が計画された。

「子供の自立心を育てるのに良いね!」

 どこの親御さんでもそう思ったし、私の母もそう思った。

「大変かもしれないけど楽しんできてね~!」

 大きい駅の大きいバスの発つ大きいロータリーの集合地から子供たちを乗せて旅立った私と私を見送った母。

 一夜が経って、また同じ場所で私を迎えるために母は電車に揺られていた。

 まるで父兄参観化みたいになった場で待つこと数十分後、見覚えのあるバスが止まった。そのバスからクモの子を散らすように子供たちと先生数人が出てきた。

「おかえりー!」「ただいまー!」

「楽しかった?」「うん!」

 そんな楽しい会話が飛び交う中で、母は一番顔馴染みの先生に向こうでの私の様子をきいた。

「ウチの子、どうでしたか…?」

「綿飴くん、別に不安がる事なく落ち着いてましたよ!」

「そうですか! それは良かったです!」

「本当に助かりました!」

「へー、そんなにですか?」

「だってお母さん、向こうで……」

 先生の話す昨晩の出来事を聞いた母が消えた。

 宿泊の晩ご飯はカレーライスで、森と湖の近くにある野外の調理場でみんなで作るプランだった。食材準備、鍋調理、ご飯炊きなど各担当を部屋グループに分かれて、みんなで明るく楽しく調理する、はずだった。

 私の担当は野菜やお肉を小さく切り分ける「食材準備」で、準備担当のみんなでトントントンと明るい音を鳴らす中、一人だけ不安な顔をしていた。その子は自閉傾向のある子で、人一倍感受性が豊かなこともあってか何かしらの重い気持ちが渦巻いたんだと思う。

「大丈夫だよ! 大丈夫!」

 と側にいた先生さんは懸命に励ましていたが、徐々に渦巻く気持ちに負けてしまい、包丁を持ったまま叫び暴れてしまった。

 危ない!

 なに あの声は?

 やだ 怖い 助けて!

 先生さんたちも他の子たちも瞬く間にみんなに不安とパニックが伝染した。先生の一人が包丁持った子を押さえることに成功したが、まだ不安が消えていない。他の子たちも消えていない。とにかく子供たちをログハウスの中に集めよう。大人たちは必死だった。全員がリビングで1時間ほど待った頃には泣いて震えてる子供たちもだいぶ減っていた。

「さぁ、みんな。カレー作りに戻ろう!」

 そう言って先生たちは子供たちを連れて調理場に戻った。そして到着すると調理場のイスの一つにに何か小さい物体が座っていた。

 よく見ると、それはエプロンを着た私だった。また座っている私の視線の先には切り終わった大量の食材が入ったボールが何個もあった。

「……これ全部、綿飴くんが切ったの?」

 私はただ黙って頷いていた。

「ずっとここにいたの?」

 私はただ黙って頷いていた。

 どうやらみんながパニックになったとき、割と近くにいた私だけがパニックにならなかったらしい。泣いてる子供たちを大人たちが必死に移動させてたから泣かずに静かだった私の存在に誰も気づかなかった。

 日も沈んで真っ暗な森と湖に浮かぶ無駄に明るい私しかいない調理場で淡々と一人で野菜とお肉を切っていたらしい。自分の分が終わったから他の子の分も切る。全員の分が終わったから近くのイスで、みんなが戻ってくるのをひたすら待機していたらしい。

「おかげですぐにカレーが作れましたよ!」

 一部始終を聞いた母は何も言わずに珍しく激怒した。

 なに?

 暴れた子だけが優遇されるの?

 危険な最中、落ち着いてたウチの子は無視なの?

 もし振り回す包丁に当たって怪我しても本人が黙って我慢してれば介抱されないの?

 もし暗い森や湖にでも行ってしまったらどうしてくれるの!?

 というか、こんなに大人がいて誰も確認しなかったの!?

 確認してよ、バカ!!

 母は私を連れた帰りの電車の中で下向いて泣きながら繰り返し怒鳴ってた。人生でもこれほど怒ったことなかった、そう振り返って言っていた。

 だいぶ前にも「あのとき怖くなかったの?」ときかれたが、もう覚えていない私にとって初めて話を聞いたようなものなので「ど、どうだったんでしょ…?」としか返しようがなかった。大人というか大人しかったんだなと我ながら呆れた。

 この他にも「綿飴くん、朝の声かけの前にベッドまわり片づけて服も着替えて歯も磨いて、本当に手間がかかりませんでした! 良い子でしたよー!」とも言われたらしい。

 えーえー(都合が)良い子ですよ。と母は適当にお茶を濁した。

 その一件も含め、諸々の理由が重なった結果、そのリハビリ会を脱退した。ここを改善してほしいとかではないので辞める理由は「一身上の都合により」。

 むしろこっちが迷惑かけたみたいな雰囲気を残して去った。

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【本日の参考文献】

東野 圭吾
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【あとがき】

 振り返って書いてみると、ずいぶんと雑な扱いというか…。

 そういうことで先生たちは結局は謝ってはいません。

 話した本人もフリートーク感覚だったみたいなので指摘どうこう以前の問題だったんだと思います。