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好きと得意は別の話というか別の次元。

【-16- 透明な黒板|ディスレクシア・カタルシス(17)】

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 小さい頃から生き物が大好きだった。

 だけど犬や猫を飼ったことはない。小鳥もなければウサギやネズミもない。ただし魚に関して言えば人より多く飼った経験はある。

 理由の一つに住んでいる家がペット厳禁の古い賃貸マンションだってこともあるが、現場肌の土木技術者だった父自身が海中工事を請け負う程のダイバーだったから、幼少期の時から我が家には魚類関連の情報が溢れていた。

 家の廊下には少し大きい水槽が二つあり、一つが海水濾過に特化した海水魚用、もう一つがシンプル構造の淡水魚用。

 この二つの水槽を駆使して海水魚に淡水魚、熱帯魚から汽水魚(川と海の境界線エリアで暮らす魚)まで、ありとあらゆる魚の飼育に挑戦してきた。

 この片方の海水魚の水槽においては一時期クマノミナンヨウハギが同居していたのだが、ディズニーがこの組み合わせで世界的有名アニメ映画を発表すると知るのは、ここから10年以上も経った先である。

 そんなシェアハウスのように様々な住人ならぬ住魚が居た中、時たま変わり種の時期もあり、ミノカサゴやイソギンチャクやアサリもあったが、一番珍しかったのがカブトガニの飼育だったと思う。当時はエビでもカニもない変わった形の生き物ぐらいしか思ってなかったが、現在では天然記念物指定の保護動物として一般の飼育は禁止されている。

 それから間もなく家計の関係でメンテナンスが掛かる海水魚の水槽を処分し、もう一つの淡水魚の水槽だけが家に残ることになった。

 更に少し時が経って、小4の夏休みに近所のデパートで「ドジョウ早すくい大会」という催し物があった。手先の器用さに自信もあってか飛び入り参加で優勝した私は景品のドジョウ3匹を貰った。

「3匹だけじゃ寂しいから買い足してドジョウ鍋するか?」

 父の非常な提案を無視して、空いていた淡水魚の水槽にドジョウ3匹を飼い始めた。

 たしか名前は「リック」「クー」「カイン」、今でも大好きな「星のカービィ」から取った。

 彼らを飼い始めて1ヶ月ぐらい経った頃、父が彼らの水槽にお友達を入れた。

 ウナギだ。もう一度言うがウナギだ。

 近所の取り扱い豊富なペットショップに売っていたそうだ。

「普通なら食べるドジョウをあえて飼うならウナギ飼うのも面白いじゃん」

 そういう経緯で大変江戸前感が漂う川魚が集まった淡水魚の水槽。

 そして1週間後には踊るように1匹のドジョウが水中を舞っていた。下半身が食いちぎられた状態で。

 この突然の殺魚事件は推理しなくとも分かるとおり、犯人ならぬ犯魚は同居のウナギで、川の中らしく食ったのだ。

 ウナギって獰猛な肉食なんだよな。顔をよく見るとウツボに似ているんだよな。では数年前にもう一つの水槽で飼っていたウツボと何が違うんだ。もう食べれるウツボなんじゃないか?(※調べるとウツボを食べる地域もあるらしい)

 小学4年生にしてハートブレイクを経験した頃、父が彼らの水槽に新しいお友達を入れた。

 ウナギだ。もう一度言うがウナギだ。

 近所の取り扱い豊富なペットショップが再入荷したそうだ。

「2匹いたほうが更に面白くね?」

 そんな父の発言から1週間もしない内に水槽からドジョウ2匹が消えた。

 たぶんこのウナギたち、よそのより少し美味だと思う。

 そうでないとあいつらが無駄死ではないか。こいつらの命は誰かの命のそばに宿ってるんだ。何だかそれらしい定義で自分なりに気持ちを整理させた。

 それから1年が経ち、片方の1匹が水槽のフタの隙間から抜けて、床の隅に散らばっていたホコリにまみれて窒息死した。

 何ともあっけない終わり方だ。

 ウナギ、死んだから食うのか?

 そんなの、こいつはもう家畜じゃなくて、とっくに家族だよ。

 結局は食べることなく今まで飼ってきた魚と同じ、近所の公園の雑草地にて土葬をしました。

 それから更に2年が経ち、50cm以上までに成長した残りの1匹が老衰で死んだ。

「家族が死んだ」

 やはり食べるとか思いつかず、片方を埋めた場所にて土葬をした。

 それから追加されなかった水槽には、水を抜いて最終的には誰もいなくなった。

 この水槽だけでも今まで様々な魚が暮らしてきたが、ここに住む魚が観賞にしろ家畜にしろ最終的には家族として同じ命だと認識して、そして形は違えど弔う気持ちが生まれるのだ。

 黒板もなければ先生もいない自問自答だけの世界。

 今考えると深めの命の授業だった。

 この水槽にはウナギの後も現在に至るまで、形も種類も違う生き物たちが暮らしてきた。

 どんな生き物にしろ、この水槽に入れば、みんな「家族」になる。

 次は何の生き物を入れるのだろう。

 次の家族が待ち遠しい。

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【本日の参考文献】

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【あとがき】

アサリ……幼稚園の時に潮干狩りで採ったアサリに情が移ってしまい、親に駄々をこねて飼いました。三日後に腐敗して痛まれない気持ちになりました。

ウツボ……大変ゴツいのに小さい私が付けた名前は「ポチ」でした。犬じゃないのにね。ちなみにウツボはウナギ目ウツボウツボ属らしく、ウナギの方が原種だったと今回の執筆で知りました。衝撃!

ミノカサゴ……見た目は綺麗ですが大変強い毒を持っているので、今思うととんでもない物を飼っていたと思います。一時期、父の提案でヒョウモンダコ飼おうかという話がありました。結局飼わなかったのですが、ミノカサゴどころじゃない毒を持っているので今は良かったと思います。

ドジョウ……名前がカービィの仲間だったので分かる通り「星のカービィ」大好きでした。当時の夢がプププランドに移住して永住権取得する事だったぐらい崇拝してました。それと同じくらいキノコランドにも住みたかったです。ディズニーランドよりゴエモンのゆき姫編に登場する遊園地に行きたくて泣きました。この頃からゲーム脳です。

 父の趣味だった廊下の水槽と同時進行でやっていた母の趣味であるベランダの園芸は今でも続いています。

 藤が咲きました。5年物です。

 桜が咲きました。11年物です。

 小さいバラが咲きました。14年物です。

 赤いアマリリスが咲きました。28年物です。