エッセイだから伝わらないが、私は人より声が低い。
マンガじゃないから伝わらないが、私は人より童顔である。
そんな特徴ふたつを抱えているが、これは足し算みたいな単純な話だ。けど、これが掛け算となると事態は急変する。
顔と声のギャップが凄まじい。
家族も認めるほど凄まじいのだ。
たとえばタラちゃんの声が穴子さんだったら気持ち悪いであろう(まあ、その逆の方が更に気持ち悪いが…)。
何も生まれたときからコレだったわけではない。
もちろん顔から想像する声をしていた。
けれども思春期頃の男子には「声変わり」という大人への転換日がある。
そう、ウィーン少年合唱団のスターソプラノが突如起こったXデーにより声が出なくなり、彼と一緒に世界公演旅行を願ったライバルが彼主演のオペラ公演で後ろ幕から吹き替える計画を立てる。そんな淡い青春映画も誕生させちゃうアレである。
「そんな映画があったんですか!」
1963年公開の『青きドナウ』というディズニー映画のことなのだが、1秒も観たことない私にはこれ以上細かく書くのは無理なので、興味のある方はお近くのTSUTAYAかGEOに寄ってほしい。
なんだか脱線してしまったので話を戻す。
その前に一つ個人的な話を。
何が言いたいかというと、私が通っていた中学校はご存じの通り荒れに荒れて掃除もせず……
◆ヤニ色の壁紙
◆ホコリで装飾された棚
◆校庭砂で薄くフローリングされた床
授業1回につきポケットティッシュ1個消費する鼻はただでさえ喋りづらい言語と出にくい濁声に鼻声要素を加えた。
そうなるとカオスだ。
国語の朗読で笑われる、音楽の合唱で笑われる、手を叩いて笑うな先生よ…。
話すこと喋ることが怖い。
通学路を歩いていても通りすがりの人からも笑われている気がした。
音楽プレイヤーに入っている歌手みたいな聞き取りやすく愛される声になりたかった。
時が経って2004年12月31日。15歳。中学3年の冬。時間は19時30分。
年末を明けて直ぐに高校の面接試験を控えていた私は私たち兄弟の部屋のテレビ前で新聞紙片手に待ちかまえていた。
これはファンとしてリアルタイムでチェックしたい!
そして片手の新聞紙にはポルノグラフィティが何時何分に出るかなんて書かれてないから、こうやってリビングより小さいテレビにすがりつく羽目になったわけである。
ちなみに兄は大学生最後の年末ということで、どこかに外出していて居ない。
「一体いつになったら出てくるんだよ…」
つまらなく待っている間は他の歌手で楽しめば良いのだが、あいにく他の歌手には一切興味がなかった。
当時持っていた音楽プレイヤーも入っているのは大好きなポルノグラフィティの全アルバムと、母と兄が尊敬する山下達郎の『RIDE ON TIME』と、情熱大陸と世界遺産のオープニングが入った『image』、これしか入れてなかった。
どのみち他曲に興味ないし、容量も256MBだし、それ以上必要ない。
どうやらこの紅白とやらは女性ボーカル(紅)⇔男性ボーカル(白)が入れ替えで進行するらしい。
つまり最も早く出るとしたら、この今映っている紅組枠の松浦亜弥とやらの次の白組枠に出てくる可能性もなくない。
松浦亜弥が終わった。
アナウンサーよ、次は誰だ?
「次の出場者はnobodyknows+です!」
くそっまた違うのかよ…。こっちだってヒマじゃないんだよ。
「「ノーバディーノーズで『ココロオドル』」」
この二人が読み終わった瞬間、事件が起こった。
ENJOY!!!!!
それは独特なマイク持ち方した男5人が鼓膜が震えるほどの重低音から始まり、今まで聞いたことない速度のアップテンポとつたない言語野が追いつかなくとも気持ち良く感じるロゴスの速い羅列。
こ、これは何なんだ…!?
片手の新聞紙を手放して、1997年ポケモンのポリゴン事件のときと同じくらいの至近距離で画面にすがりついた。
何もかもが未知なのにドキドキする…。さっき紹介された曲名通り「ココロオドル」!!
曲開始30秒が経った辺りか、それはそれは底なし沼のような重低濁声がお隣のスピーカーから飛んできた。つかさず私もスピーカーに飛びついた。
当時の感触を率直に申すと、ハンマーで頭かち割られるほどの衝撃だった。
この男の声はお世辞にも全然キレイじゃない。なのに、なのに、手が汗ばむほどカッコ良くて涙が出てきた。
無意識にリモコンで音量を上げた。
数秒後には後ろのドアからも早い重低音テンポが飛んできた。
「うるせぇぞゴルァ!!!」
紅白が嫌いな父だ。
昔から父には逆らえない…でも今の方が逆らえない。
ドアノブの鍵を閉めて、耐えた。
今この部屋は私だけの聖域だ。
目の前のブラウン管から革命が叫んでいる。
ドン ドン ドン バンッ!!!
これは後ろのドアからだ。どうやら蹴り始めたようだ。
怖い、でも、いいぞ。
自分の中の妬み全てが崩れてく。
さっきの男の単独パート2回目が来た!
ベルリンの壁は崩壊した。
未開の月に足跡が残った。
これは(私の)歴史にとって大きな一歩だ。
彼らがNHKホールにENJOYとコールを求めてる。
さすがに恥ずかしいから小さくレスポンスした。
演奏時間3分の革命が鳴り終わった。
ハァ…ハァ…鼓動の音が執拗に響く。あ、後ろのドアか。
テレビを消して、鍵を解いたドアを静かに開けて、
「ご、ご迷惑かけて…すみません…」
リビングから漏れてくる年末総合格闘技の攻撃トドメの一喝並みにめちゃくちゃ怒鳴られた。
ベソかくぐらい怖かったけど悔いはない。何より壊してくれたハンマーをもっと知りたい。
その前にポルノの新曲見届けないと。
あっ始まった!
やっぱり良いな!!
2005年正月最初の仕事はパソコンで昨日のグループ名と、あの濁声男の名前を調べることだった。
グループ名は『nobodyknows+』。主に名古屋を中心に活動している6人組のヒップホップグループ(現在は5人組)らしい。
ヒップホップとは何ぞや?
ウィキペディアによると「リズム、ラップを同じ調子で繰り返すリズミカルなミュージックからなる音楽のジャンル」を指すらしい。
ラップとは「小節の終わりなどで韻を踏みながら、リズミカルに喋るように歌う方法の事」。
つまり言葉遊びか!
大好きなお笑いにも通じる!!
えーこれは面白そう!!!
もっと色んな曲を聴いてみたい!!!!
そして昨日の濁声ラッパーの名は『ノリ・ダ・ファンキーシビレサス』。その凶悪なダミゴエフロウとインパクト抜群の名前から、個性的なメンバー揃いの中でも一際強力な光を放っている。
彼は私にとって濁声コンプレックスを取り除いてくれた恩人。そしてヒップホップという新しい世界を教えてくれた恩人。
声低くたって良いじゃない、カッコいいもの!!
これでは「相田みつを」だな…。
こうなると他のグループも聴きたくなる。
パソコンとTSUTAYAを往復して、
よし、このお笑いと科学と音楽を抱えて4月からの高校生活を楽しもう!
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【あとがき】
【あとがき】
それからはカラオケ行くとき必ず「ココロオドル」を入れてます。
まあ、人生2回しか行ったことないんですが…。
彼の声を知ってる人なら分かると思いますが、自分が歌うとき本当にあんな声です。
でも自分はこの声が好きです。
だから2012年11月11日に放送された『モヤモヤさまぁ~ず2 名古屋(後編)』で居酒屋からシビレサスさんが出てきたときは本当に驚いたというか嬉しかったなぁ…! いつかあの居酒屋に行って感謝の気持ち伝えたい!!
それから6年もの期間があったというのに、未だに行けていない。あの居酒屋の名前すら忘れてしまった。まだいるのかなぁ…。
忘れるほど熱が下がってしまった原因の一つに、最近ラップを聞く機会が減っていました。
実はラップおよび音楽と同じくらい好きなものに映画がありまして、ヒマがあればまだ見ぬ新作・名作・珍作映画作品を映画アプリで探して、そして観れる機会をうかがって観ています。
この(ひどくダサい)予告で分かるとおり、大変不気味である。本編75分間ひたすら不条理な描写(だけど原作が古典のSF短編小説なのでストーリーがしっかりしていて意外と見やすい)が続くが、アニメ・SF・ホラー・クトゥルフ神話・諸星大二郎の世界観を愛する自分には未知たりた、いや満ちたりたものがあった(これが40年前に製作されたんですよ!! スゴくないですか!?)。
鑑賞後もYouTubeでこの映画の予告(先ほどの動画)を見ていたらコメント欄に「『禁断の惑星』から来た」という声が多くあった。
『禁断の惑星』って、あの『禁断の惑星』?
はっきり言って衝撃だった。
著作権の関係で書けないが歌詞がブラック効いててめちゃくちゃカッコいい! 韻の踏みかたも秀逸!! 何よりビートの音源が全て『ファンタスティック・プラネット』の音源から構成されている!!! MVも『ファンタスティック・プラネット』だけでなく『禁断の惑星』『博士の異常な愛情(1964年:イギリス・アメリカ)』『π (1997年:アメリカ)』の映像を巧みに組み合わせている!!!!
一言で表すと、
「暴力的にカッコいい!!!!!」
こんな曲があったなんて知らなかった…。
調べると2012年に発表されていたらしい。
少し関心が離れてたせいで、こんなCOOLな曲を6年も知らずにいたのか…無駄なことしたなぁ…。
この曲を即ダウンロードして、今も聞きながらこの記事を書いています。
『ファンタスティック・プラネット』個人的にオススメなので、どこか出会うきっかけがありましたら観てみてください!
~以上、長い本編と同じくらい長いあとがきからお送りいたしました~