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好きと得意は別の話というか別の次元。

お笑いコンビ:ランドスケープ【コント|子どもの取り違え】

 父親:見坊
 医師:御津
 
〇病院・診察室
 
 中心に医師と患者の椅子が置いてある。
 医師と父親が座りながら深刻な表情で向かい合う。
 
父親
「取り違え、ですか」
 
医師
「はい」
 
父親
「ウチの息子を取り違えたのですか…」
 
医師
「はい…この度は誠に申し訳ありません」
 
父親
「…申し訳ないで済む話ですか?」
 
医師
「それは重々に承知してます。けれども…」
 
父親
「けれどもではない! もう3歳ですよ!? 生まれてから3年間色んな思い出を重ねてきたのに今更違うだなんて…」
 
医師
「お気持ちは察しますが、それほど重要な問題では…?」
 
父親
「あんた何言ってんだ! あなたの不注意でこんな事態になったんだろうが!」
 
医師
「確かにそうです。けれども、おたくの双子の兄弟を取り違えただけで、あなたの子には変わりませんよ?」
 
父親
「それが問題なんだよ…うぅ…兄の朝陽が弟の夕陽で弟の夕陽が兄の朝陽だなんて…」
 
医師
「あの、あー…すみません」
 
父親
「ウチの子らはこれからどうなるんだ? 役所行くのか!? 戸籍は変わるのか!?」
 
医師
「あいにく医師なので詳しい法律は分かりませんが、朝陽君と夕陽君は一卵生双生児ですし、身長も体重も血液型も同じですから変わっても影響は無いかと」
 
父親
「あんたねぇ、俺が朝陽に何回『お兄ちゃんなんだから』と言ったと思うんですか? 実際は弟が我慢してたなんて、まだ小さい末っ子になんて可哀想なことを…」
 
医師
「まあ数十分しか変わりませんが…」
 
父親
「名前こだわったんですよ!? しかも双子だと聞いて兄弟で手と手を取っていけるようニコイチの名前にしたのに…」
 
医師
「朝陽から夕陽まで。太陽のように元気に。そうでしたよね」
 
父親
「それが夕陽から朝陽までって完全に太陽ないじゃないですか!」
 
 医師、少し考え込んで言う。
 
医師
「…失礼ですが、奥様のお名前。いや、どういう字の名でしたっけ?」
 
父親
「はあ? 美しい月で『美月』ですが…?」
 
医師
「そう、つまり夕陽と朝陽の間を支える月こそ奥様なんですよ!」
 
父親
「それじゃあ俺は何の為に居るんですか?」
 
医師
「では、あなたのお名前は?」
 
父親
「……三つの日で『晶』です」
 
医師
「その三つの『日』は誰の為にあるのですか? 奥様と双子の為に日が三つあるのではありませんか?」
 
 父親、驚いた表情をする。
 
父親
「……!!」
 
医師
石器時代の家族にとって夜は恐怖の象徴でした。昼より野獣に襲われる可能性が高かったから。でも見坊さん家族は違います! たとえ夜でも家族全員で手と手を取り合って幾千の夜を越えるのです!」
 
父親
「幾千の夜を…!」
 
医師
「あなたたち家族四人揃って『白夜』になれるのです! 今は白夜の尊い空を見上げましょう…!」
 
父親
「先生…俺間違ってました! 頑張って沈まぬ太陽を目指します!」
 
医師
「そうですか! ぜひ頑張ってください!」
 
医師:ナレーション
「ふぅー…何とかそれっぽい感じに丸め込めた。余計なトラブル抱えたくねぇし」
 
 父親のスマホが鳴る。
 
父親
「あっ! すみません、妻から電話が。ちょっと席外しますね」
 
医師
「ええ、いいですよ」
 
医師ナレーション
「どうでもいいよ」
 
 父親、診察室から出る。
 ドア越しに診察室へと大声が聞こえる。
 
父親
「うん、うん、ああ……えぇ?!!」
 
医師
「廊下なのに声やっかましいなぁ…」
 
 父親、急いだ顔で診察室に戻る。
 
父親
「先生、大変です!」
 
医師
「何かあったのですか?」
 
父親
「いま妻からの連絡で、役所で家の戸籍調べたら、3年前に俺慌ててたのか、兄の出生届に弟の名を書いてました!」
 
医師
「お前も取り違えたんかいっ!」


(おわり)