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好きと得意は別の話というか別の次元。

┣いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない

【-34- ファースト・インパクト(後編)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(18)】

正式にACT塾に通うことになって、再び私は再び受付嬢から番号札を受け取って、塾長がその部屋まで案内してくれた。どうやら担当する先生は理科Ⅰ類3年の男子大生らしい。その先生のいる狭い個室のドアを塾長が開けて一緒に入り、その担当の先生の顔を一目見て…

【-34- ファースト・インパクト(中編)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(17)】

次に向かった塾は高校3年の始業式後に訪れた学校の駅から歩いて5分ちょっとの雑居ビルにある独立の小さい個別指導塾だった。 この個別指導塾『ACT塾』の特徴は先生全員が現役T大生なのに学費が大手予備校の約半分なところだ。T大学に合格したACT塾の卒業生を…

【-34- ファースト・インパクト(前編)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(16)】

いい判定が出た。 高校最後の春休み前の予備校の模試の結果の話である。 それまで模試は幾度も受けてきたが、ここに来て一つの現実が押し迫ってきた。 E判定が出た。 言っておくが良い判定ではない、E判定である。塾業界にとってE判定の紙とは、社員と講師と…

【-33- 後の祭の夜(後編)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(15)】

散る桜が積る雪を解かす頃、2年間お世話になった先輩たちの卒業式ではなむけを贈ったわずか数日後、私らは春休みを利用した修学旅行へと飛んだ。 よそは知らないがウチの学校では受験や就活で忙しくなる3年生直前、最後の長期休暇にグダグダ家にいるより遠い…

【-33- 後の祭の夜(前編)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(14)】

にぎやかだった文化祭の後片づけを終えて、今年も良い手応えがあったとしみじみ実感していた。 もう文化祭は去年に経験済みだから、開催中に起こりうるトラブルを想定して自ずと先回りする形で回避した。と書けばカッコいいが正しくはそうではない。 第31話…

【-32- つまり人生には出会いと別れがあってだな、|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(13)】

突然だが、生まれて初めて一目惚れを経験した。 その素朴な姿形から漂う品性まで私の奥底に抱える感性すべてを飽きなく心地よく刺激してくれた。少しでも隣にいられたら、その影が私の影になれたら、あわよくば正式に人生のパートナーになれたら、一瞬にして…

【-31- 空が鳴っている|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(12)】

国語辞典を開くと“空”を使った単語の多さに気づく。私たちが普段使っているものから私たちでさえ知らないものまで。 雨空、夏空、空気、空晶、空翠……そこには日本人の美学と道徳すら感じる。 では今、この窓から見えている空は私たちの知る言葉の中で何と表…

【-30- 長く短い文化祭|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(11)】

世間の思うシーズンに合わせてウチの学校でも文化祭が始まった。立冬が近い11月のことである。 最初に言っておくがウチのクラスが何の催し物をしたのか全く覚えていない。振り返るとこれは仕方ない話で、そもそもどこか部活に所属している生徒は基本的に教室…

【-29- とある八月の出来事|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(10)】

私は山に行く。 いや、これは第14話のタイトルを復唱しているのではなく、実際に私は今山梨県北部の鬱蒼とした山奥を歩いている。 なぜこうなったのか。 事の発端は今から1~2ヶ月前に遡る…。 私が当時入っていた科学部は世間一般に思う科学部と少し違ってい…

【-28- 青臭い春|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(9)】

降りる駅の近くにある桜の遅い開花で、まだ制服に味がない新生徒の入学式は余所よりは仄かに彩りよく始まった。 私が入学した『自由立高等学校』はおだてにも偏差値は高くないが学費も高くない。また開校70年以上変わらない教育方針として積極的に徹底的に風…

【-27- 濁声(だみごえ)|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(8)】

エッセイだから伝わらないが、私は人より声が低い。 マンガじゃないから伝わらないが、私は人より童顔である。 そんな特徴ふたつを抱えているが、これは足し算みたいな単純な話だ。けど、これが掛け算となると事態は急変する。 顔と声のギャップが凄まじい。…

【-26- 空想科学少年|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(7)】

「学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、よりいっそう学びたくなる。」――アルベルト・アインシュタイン(1879年~1955年) この時この言葉を知ったのは、些細なきっかけで読み始めたアインシュタインの…

【-25- 終わりの始まりの中盤すぎ|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(6)】

中学最後の2学期が始まった。 少し関係ない話になるが、もし中学3年間を9学期で記した場合、今は「8学期」になる。 さしずめ「終わりの始まりの中盤すぎ」というところか。 この8学期には只でさえ不安定な気持ちに追い打ちを掛ける要素が溢れるほどに詰まっ…

【-24- 鮪漁船|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(5)】

「おい、地獄さ行ぐんだで!」 これは『蟹工船』(小林多喜ニ:新潮文庫)の書き出しだが、毎朝洗面所の鏡前に立つ度に向こう側から、そう言われている気がした。 中学3年生。もうすぐ義務教育が終わる。 勉強はできない。運動はできない。 友達はいない。敵は…

【-23- PG-12|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(4)】

正直に言って今もなのだが、当時の私は流行に大変疎い傾向にあった。 特にひどかったのが「音楽」。 ただでさえ聞き取るのが困難な言語障害にとってイージーリスニングは全然イージーではなく、むしろ不快の何物でもなかったから大嫌いであった。 音を楽しむ…

【-22- 時は短し勉強せよ弟|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(3)】

7歳上の私の兄は元々勉強ができなかった。 小さい頃から大変病弱だったから外で遊ぶのが苦手で、それに加えて気も大変弱くて泣き虫だった。 NHKの『みんなのうた』で流れる「まっくら森の歌」「サラマンダー」「メトロポリタンミュージアム」が怖い怖いと泣…

【-21- 野生の動物園|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(2)】

中学3年間を振り返っても、この「1年2組」が最悪だった。 前話も書いたとおり、ここは柵も檻もない動物園。そして気になるのがその数だ。多い、多すぎる。男子だけでもクラスの2割はいる。女子だけだとクラスの1割。黒髪だけど雰囲気的にそっち系の男子と女…

【-20- 二十一世紀旗手|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(1)】

2002年4月。10年に及んだリハビリがなくなった。 そして12歳の私は中学生になった。 『20世紀生まれ。21世紀育ち。』 少し前ならカッコ良く感じた肩書きも、実際は地球上にいるほとんどの人が該当する本当にありふれたものへとなり下がった。昔のSF作家たち…