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好きと得意は別の話というか別の次元。

お笑いコンビ:ランドスケープ【コント|脱・引きこもり】

 コンサルタント代表:見坊
 元引きこもり青年:御津
 
 〇舞台・照明OFF
 
ニュース番組のナレーション
「ここは都内にある某アパート。そこに5年間引きこもる息子を救ってほしいとの連絡が入ったと知らせたのは、近年カリスマと讃えられる『引きこもり更正コンサルタント代表』見坊晶氏。見坊氏は直接交渉に向かうとの事で我々取材班もカメラを抱えて同行させてもらった」
 
 ――舞台が明転する。
 
 〇“203”と書かれたアパートの玄関前・本番収録直前
 
見坊
「じゃあ最終確認。アパートの階段上がった2階の奥にあるこの203号室が今回の現場だ。カメラマンいいか? ドアが開いた瞬間、俺と住人の顔をアップに撮すんだぞ? 『アップ』だぞ? いいか、チャンスは一度しか無ぇから以前みたいに失敗しないよう注意払えよ? おい答えろ、分かったか? 行くぞ」
 
 (効果音)
 カメラのスイッチ音が入る。
 
見坊
「皆様こんにちは。こちらが今回相談となった息子さんのいる203号室です。では今からチャイムを押してみます」
 
 (効果音)
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 
 カメラに向かって見坊が大声で言う。
 
代表
「えー、このように居留守を使うのは引きこもりの常套手段です。ですが私には通用しません、ここからが長い戦いになりますから皆様も覚悟してください」
 
 撮影スタッフに口を動かさないで見坊が小声で言う。
 
見坊:ナレーション
「おいテープ足りてるか? 長くなるんだぞ、本当に大丈夫か? テープチェンジ無しで頼むぞ」
 
 カメラに向かって見坊が大声で言う。
 
見坊
「では、もう一度押しましょう」
 
 (効果音)
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 
 見坊がドアを叩く。
 
 (効果音)
 ドンドンドンッ!!
 
見坊
御津子くん! 御津子くんっ! 怖がらなくて大丈夫だよ! お兄さんと少しお話をしよう! だから出てきて!」
 
 見坊がドアを叩く。
 
 (効果音)
 ドンドンドンッ!!!
 ドンドンドンッ!!!
 
 見坊がドアノブを回す。
 
 (効果音)
 ガチャガチャガチャッ!!!
 ガチャガチャガチャッ!!!
 
 見坊が何度もチャイムを鳴らす。
 
 (効果音)
 ピンポッピンポッピンポン!!!
 
見坊
御津子くん、我慢しないで出ておいでっ!」
 
 横からスーツを着た青年が現れる。
 
御津
「……あの、何してるんでしょうか?」

 見坊、御津子を睨む。
 
見坊
「あ? 今撮影中なんだよ。部外者は黙って引っ込んでろ」

御津
「いや部外者も何もここオレの部屋ですし…」
 
見坊
「は? あっ君が御津子くん!? 良かった~!! お兄さん、君に会いたかったんだよ~!!」
 
御津
「は、はぁ…そうですか…」

 見坊がカメラ目線で言う。

見坊
「今回のように直接ご本人とコンタクトとれることは奇跡に近いです。どうやら幸先が良さそうです!」

 見坊、視線を御津子に合わせる。
 
見坊
「ところで今日どこかに行ってたのかな? 何だかスーツっぽい服着てるけど?」
 
御津
「いや見たまま普通にスーツですが?」

見坊
「あぁーそう! うーん…何でスーツ着てるのかな?」

御津
「あー…実は就職が決まりまして、お世話になったバイト先に報告とお礼を伝えにいったんですよ」

見坊
「…ん? はっ就職!? 就職したの!?」

御津
「えぇ、先々月からハローワークに通いまして。紹介された所をしらみ潰しに受けました。正直今のままじゃいけませんし、せっかく両親がここまで育ててくれたのに結末がこうだなんて申し訳ないというか苦しくて…それで一大発起してドアの外に出たんです」

見坊
「へっ…へぇー?」

御津
「まずは就職の前にバイトで軍資金と環境に慣れようと思い、半年前にコンビニで求人雑誌を探してたんですけど貯金が無くて…履歴書と雑誌一冊しか買えないから何冊もずっと読み比べていたらコンビニの店長に声を掛けて頂いて、ありのままに事情を話したら『面接の練習』として履歴書の書き方と模擬面接に付き合ってもらった後にその店長が言ったんですよ、『採用!』と。つまり、そのコンビニで雇ってもらえる事になったんです!」
 
見坊
「ふーん…」
 
御津
「いずれ就活したいと話していたので、それまでの短期で構わないとシフトも優先してくれた上にスーツ選びも手伝って頂いて…本当に店長には感謝の気持ちしかありませんっ!」

見坊
「あっそ、」
 
御津
「それでハローワークで紹介された一社が大変アットホームな会社で、家族経営の小さい所ですが社長が理解してくれまして、今日の午前に内定を頂いたんです!」
 
見坊
「……」
 
御津
「あ、今カメラ回ってますよね? ちょっといいですか?」
 
見坊
「…ご勝手に」

御津
「あの、えっと……親父、お袋、今まで育ててくれたのに迷惑ばかりかけてしまい本当にすみませんでした。遅くなったけど時計を回すことが出来ました。初任給…はまだ難しいけどボーナス出たら家族旅行に行かない? ほらっ親父たちが新婚旅行で行った熱海とか! まだ時間かかりそうですが時計を戻してオレとまた家族になってください。それま、」
 
 御津子、感極まって言葉が詰まる。
 
御津
「それまで…二人とも長生きしろよっ!! あぁーどうしよ、ヤバいな。さっきコンビニで泣いたばっかなのにまた出てきた…ほんとダセぇ…」
 
見坊
「なぁスタッフ、一回カメラ止めろ」
 
 見坊、険悪な表情で言う。
 
見坊
「なんだこれ? こんな情報聞いてねぇぞ?」
 
 見坊の背中に向けて後ろから御津子が言う。
 
御津
「当たり前です。まだ両親に伝えてなかったので…」
 
 出た涙を拭く御津子。
 
 見坊が御津子の方を振り向く。
 
見坊
「いや待て、親から電話なりメールなり連絡きてたろ?」

御津
「以前はしょっちゅうありましたが諦めたのか、ここ1年くらい連絡きてません」

見坊
「んだよ、カメラ入るって言っとけよ! 使えねぇなぁ?!!」

御津
「使えないって…それにカメラ入るとか言っちゃったら意味ないんじゃ?」
 
見坊
「黙れ素人がっ!!」
 
御津
「はい…」
 
 見坊が頭をかきむしる。

見坊
「こっちはさ、色んな大人が動いてんのに勝手にやられたら困るなぁ」
 
御津
「すみません…」
 
見坊
「で、どこだ? てめぇを入れたその会社は?」

御津
「えっ…そういうのは個人情報ですし…」

見坊
「個人情報? 2階から突き落とすぞ」

御津
「…『見坊墓石』という葬儀会社です」

見坊
「はぁぁぁ見坊墓石!? 俺の実家じゃねぇか!! うわマジざっけんな!!!」

御津
「えっ! そうなんですか!? ではお父様にお伝えください。『無縁仏だった私に立派な墓石を立てて頂き本当に有り難うございます』と」

見坊
「誰が伝えるか糞ニート野郎! クソっ文句言ってやる」
 
 ジャケットの内ポケットからスマホを出す。
 
御津
「ついでに感謝の言葉も……あとニートじゃな」
 
 御津子の台詞を被せるように見坊が大声で言う。
 
見坊
「黙れっ!!!」
 
 見坊がスマホを顔に近づける。
 
 (効果音)
 プ、プ、プルル…プルル…ガチャ

見坊
「もしもし? 親父? てめぇまた俺の邪魔しやがって……あ? あぁ、元気にやってる。えっ兄貴、組抜けて帰ってきたの? しかも孫連れて!? ったく何してんだよ…で今ウチ手伝ってる、うんうん、ちょっ何で知ってるの! 孫と一緒に放送観てた!? ガキに変なもん見せんなよ…ハハッ! ああ、うん、まあ再来月辺り空いてるから帰れたら帰るわ。つか正直兄貴より甥っ子会いてぇ! うん、じゃ」
 
 見坊、複雑な表情でスマホを切る。
 
 御津子、横から申し訳なさそうな表情で見坊に話しかける
 
御津
「…あのぉ」

見坊
「今度は何だ?」

御津
「私の伝言は…?」

見坊
「やべっ忘れてた!!」
 
 ――舞台が暗転する。
 
ニュース番組のナレーション
「見坊氏の命令に背いてカメラに押さえた偶然が紡いだ若者二人の再生。この一部始終に幾つの奇跡が生まれたのか我々には分からない。けれども、この一部始終は幾つもの人々に希望を生み出すことに皆は分かるであろう。我々取材班はこれからも『引きこもり更正コンサルタント代表:見坊晶』に密着していきたい」
 

(おわり)